
Graphisoftは2025年10月、次期版Archicad 29を発表し、新製品のMEPデザイナーと「AIアシスタント」を同時に導入すると発表しました。このリリースは「同社史上もっとも重要な一歩」と評されており、設計者のワークフローにAIが本格的に組み込まれる新時代の幕開けを予感させます。Graphisoftが提唱する「デザインインテリジェンス戦略」では、AIが反復的・低付加価値な作業を引き受けることで、設計者は創造的な高付加価値業務に集中できるようになると明言されています。ARCHICADもまさにこの戦略の中心であり、設計の”部下”としてAIを活用する流れが始まっています。
なぜARCHICADとAIは相性が良いのか
BIM(ARCHICADをはじめとする建築モデル)は、単なる3D形状ではなく、壁・梁・仕上げ・断熱性能・数量・設備仕様・コスト・法規条件といった建物情報を含む巨大なデータベースです。AIは大量データの処理とパターン認識に優れており、構造化されたBIMデータを学習しやすい土壌を持っています。つまり、従来の2D図面よりも情報量の多いBIMこそ、AI技術との親和性が極めて高いのです。Graphisoftの公式サイトでも、AIアシスタントはArchicadに組み込まれ、自然言語でモデルに問いかけることで設計者を支援すると謳われています。これからは「この壁を300mm下げて」などの指示をAIに出せば、BIMモデルが自動的に修正される時代が来るかもしれません。


現在ARCHICADで始まっているAI機能
ARCHICADにはすでに以下のようなAI機能が搭載されています。
- AIアシスタント(Beta):Archicad 29に組み込まれたチャット型AIが、操作方法や機能に関する質問に答え、専門的なガイドを提供します。例えば「構造柱を一括配置する方法は?」と尋ねれば、公式ガイドやナレッジベースから答えを即座に引き出してくれます。
- AI Visualizer 2.0:模型やスケッチに簡単なテキストプロンプトを入力すると、高解像度のパース画像を即生成する機能です。生成された画像はスライダーで元画像と比較したり、ブラシツールで特定部分だけ修正したりでき、ARCHICAD内に直接保存できます。
- BIM問い合わせ(BIM Queries):「コンクリートの外壁を全部選択して」といった自然言語でモデル内要素を選択・操作できます。
- 法規・標準参照:例えば英国法規など、選択した地域の建築基準に関する質問にも答えてくれます。
- MCP(モデルコンテキストプロトコル)(開発中):AIがArchicadモデルの構造やドキュメント構成にアクセスし、直接データを読み取って支援できる新技術。単なるチャットに留まらず、AIがモデル内で「何が起きているか」を理解します。
- 繰り返し設計エンジン(開発中):スケッチや手描き模型から複数の配置・マッシング案を自動生成する技術。初期段階で多様なプランを作成し、コストや性能を早期評価できます。
Graphisoft公式によれば、これらAI機能はいずれもArchicadのワークフローにシームレスに統合されており、AIが低レベルな作業を担うことで設計の幅を広げることを目指しています。

今後実装されそうなAI機能
技術革新は加速しており、今後さらに下記のような機能が期待されています。
- 自然言語BIM操作:上記のBIM問い合わせ機能が発展し、平面図上の編集(壁位置変更、部屋サイズ変更など)や配置調整を、テキスト入力だけで自動実行できるようになる可能性があります。
- 高度な法規チェック:AIが日本を含む世界各国の建築法規を学習し、高さ制限・斜線制限・避難経路・採光条件などをモデル上で自動チェック。法的グレーゾーンや違反リスクを早期に警告するツールが研究されています。
- 自動プラン生成:敷地条件、家族構成、希望予算、駐車台数といった要件を入力するだけで、AIが複数の間取りプランを生成し比較できるシステム。これはまさに「設計の肝」の一部をAIに委ねる形で、近い将来の実用化が見込まれます。
これらの技術は既に学術研究や開発ロードマップで言及されており、設計・BIM作業のさらなる効率化が進むと考えられています。

AIによって減る仕事とは
Graphisoftも「AIは反復的で価値の低い作業を引き受ける」と明言しており、まさに単純作業がAIのターゲットになります。具体的には以下のような作業が自動化の波にさらされるでしょう。
- 2D図面や3Dモデルのトレース作業
- 少しの修正によるモデル更新(高さ変更や寸法調整など)
- 図面レイアウト・テンプレート作成やシート整理
- 数量拾いや費用集計などのデータ抽出作業
- 複数の似たようなCGパース生成
これらはBIMのデータ構造をAIが理解しやすいため、効率的に処理できます。実際、Graphisoftが掲げるデザインインテリジェンスでは「AIは設計者の専門性を補完し置き換えない」とあり、AIは設計者の”残業作業”を削減するツールと位置付けられています。


逆に価値が上がる人材とは
では何が残るのか。答えは明快で、人間にしかできない判断・提案能力です。例えば:
- デザイン判断・美意識:建築的な「美しさ」やコンセプトを生み出す力。AIは時に奇抜な提案を出しますが、最終的なデザイン意思決定は人間の役目です。
- クライアント対応・ヒアリング:施主の要望や現場の雰囲気をくみ取る能力。顧客ごとの柔軟な提案・交渉は依然、人間の経験が必要です。
- 法規解釈・技術判断:法規チェックはAIでもできますが、その結果をどう使うか(解釈の幅や最適な対応)は現場を知る設計者の腕の見せ所です。
- 施工知識・納まり理解:現場での施工性や納まりを考慮した設計判断はAIにはまだ難しい領域です。
- BIMマネジメント:プロジェクト全体の情報管理、チーム調整、ワークフロー設計などを統括する力も価値が増します。
Graphisoftが言うように、AIは設計者の能力を増幅するものであり、「AIなしの設計者は時代遅れ」とならないためにも、むしろAIを使いこなせる人材の需要が高まっていきます。


これからARCHICADユーザーが学ぶべきこと
- BIM理解を深める:単なる図面作成ではなく、「情報設計」を身につけることが肝要です。属性や要素間の関係性を正確に扱えることが、AI時代での強みになります。
- AIツールを使いこなす:ChatGPTや画像生成AI、AI搭載のCGツール、そして新しいArchicadのAI機能を積極的に試してみてください。使い方を学ぶほど、業務効率化のヒントが得られます。
- 提案力・プレゼン力を磨く:AIが作業を担う一方で、設計意図やプランをいかに説得力をもって伝えるかが差になります。動画、CG、VRなど多様な手法を組み合わせたプレゼン技法を身につけましょう。


まとめ


ARCHICADのAI化はまだスタート地点に過ぎませんが、その方向性は明確です。今後は「描く設計者」よりも「考える設計者」が求められる時代になります。AIは建築CADの新たな相棒であり、図面作成の多くは自動化へ向かいますが、最終的な意思決定は人間の手に委ねられます。AIアシスタントは2026年に商用リリースが予定されており、Archicadは「考えながら設計する」環境へと進化しています。AIを敵視するのではなく、むしろAIを“部下”として使える設計者こそ、これからの建築業界で勝ち残るのです。5年後には「昔はすべて人力でやってたんだよ」と笑って話せる日が来るかもしれません。